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東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)805号 判決 1967年3月31日

理由

請求原因事実は全部当事者間に争いがないけれども、他方本件訴が提起された昭和四一年三月一一日当時、被告の本件(1)ないし(12)の各手形金債務について既に法定の時効期間が経過していることも又明らかな事実である。

そこで、原告主張のように、被告が昭和三八年六月二四日付をもつて本件(2)ないし(10)の手形金債務を承認しているかの点について判断する。原告が右承認の旨を記載した書面であるとして提出した甲第三号証の成立を被告において認めているので、この文面をどのように読取るかによつて本件の帰趨がきまる訳である。まずこれを原文のまま再掲してみる。

「拝復昭和三八年六月一九日付内容証明郵便確かに拝見致しました。当社買掛金として金八十九万一千四百七十一円也の請求がありましたが其の内一金五二万千五百五十六円也は大田区西六郷三丁目一三番地報国建設株式会社の債務であり昭和三六年七月一三日の事件後当社に於て報国建設株式会社の仕掛工事と債務の一部引受の約束が成立当社は誠実に実行中報国建設株式会社の一方的なる不信行為にて破約と相成り当社も甚大なる被害を蒙り営業不振(原文「信」)となり昭和三七年二月より休業中であります。

当時貴社の受取手形で不渡となつた報国建設株式会社発行の約束手形と交換に当社約束手形を貴社に御渡し致しましたが以上の事情にて不渡となり誠に御迷惑をお掛けいたし申し訳ありません。

依つて債務の事実は報国建設株式会社に在るものですから当時の約束手形当社に保存してありますから御返還致し度いと思います。

残額の金三拾五万四千九百拾五円也は当社受取手形にて決済してあると思つて居りますが若し明細内容を御示し下され度く残債務のある場合には時日の御猶余を頂き誠意をもつて解決致し度く存じております。」

よつてこの文意について考えるのに、前半の五二万六、五五六円に関する部分は、結局のところ右債務の存在を認めながらただこれを弁済できない事情として被告会社と訴外報国建設株式会社との間の債務引受契約が破約になつてこの債務が右訴外会社に再び帰属するに至つた旨の被告会社なりの見解を述べているにすぎないものとみるのが相当であり、後半の三五万四、九一五円に関する部分は、その趣旨必ずしも分明であるとはいいがたいけれども、この書面が作成された当時原告の被告に対する債権として手形金債権と売掛金債権との合計九〇数万円が存在していた事実(この事実は証人小池成雄の証言によつて認めうるところである。)及び「三五万余円については被告会社で持つていた手形を原告会社に渡しておいたのが不渡になつたのです。」との趣旨の被告会社代表者本田徳太郎尋問結果部分(第一三項)を勘案して考えると、この記載を債務消滅の主張とみるよりも、むしろその逆に、債務の存在を承認した上で後日のため一応異議権を保留した趣旨に理解するのが妥当である。

してみれば、被告は昭和三八年六月二四日に原告からの請求にかかる八九万一、四七一円の債務を承認したものとみるべきところ、この中に本件(2)ないし(10)の手形金の合計六七万三、〇八八円が全額包含されていることは、《証拠》を総合してこれを認めることができるので、この部分に関する消滅時効は右の時点で中断しいまだ完成していないといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求中本件(2)ないし(10)の手形金の合計六七万三、〇八八円及びこれに対する本訴状送達の後であること記録上明らかな昭和四十一年三月一七日以降完済までの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容するが、本件(1)、(11)及び(12)の各手形金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分は消滅時効の完成及び被告の援用によつて理由なきに帰するからこれを棄却する。

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